世界トップアスリートの子供時代の特徴

パリオリンピックを終え、アスリートの活躍や振る舞いから多くの感動を与えてもらい、スポーツはやはり素晴らしいなと改めて感じています。

さて、今日のテーマは最近よく質問を受ける、「子供のスポーツの習い事はなるべく早いほうがいいのか」という質問から考えていきたいと思います。

ワールドクラスと国内クラスのアスリートなど、9241人を調査した71の研究を統合的に調査したMichael Barth(2022)の研究では、

①成人のワールドクラスのアスリートは、国内クラスのアスリートと比較して、子供時代に多くのスポーツを経験しており、メインとなるスポーツを専門とする時期が遅く、メインスポーツの練習量も少ない。

②対照的に、成績の良いジュニアアスリートは、メインスポーツの開始時期が早く、メインスポーツの練習を多く行っていた。

③ 調査結果は様々なスポーツで一貫しており、スポーツの種類に関係なく、参加パターンとパフォーマンスへの影響は強固である。

また考察で、小児期/思春期のマルチスポーツへの参加は、その後の燃え尽き症候群のリスクを軽減するが、小児期/思春期に早くからメインスポーツを特化したアスリートは怪我のリスクが高くなることも報告しています。

世界的ベストセラー「RANGE(レンジ)知識の「幅」が最強の武器になる」でも、ロジャーフェデラーとタイガーウッズを比較し、アスリートの子供の時における多様なスポーツ経験の重要性を説明しています。

近年、日本のジュニア世代は世界レベルで活躍しているアスリートが多い一方で、成人になるとジュニア世代と比べて、世界で活躍できるアスリートは減ってしまうことも問題視されています。

日本では、早くからスポーツを始め、専門特化する風潮もあり、中学ではほとんどの学生が競技を専門特化してしまい、多数のスポーツを経験する環境も乏しいのが現状です。そのため、ジュニア世代では活躍できる選手が多いが、成人になると怪我が増え、パフォーマンスの向上ができず、世界レベルのアスリートになれない可能性も示唆されています。

海外では、中学はもちろん高校でも複数のスポーツのクラブに所属でき、大学でも野球とバスケットボール、アメリカンフットボールのように複数のクラブに所属している学生も多くいます。

留学時代に見た複数のスポーツを経験しているアスリート達は、全身バネのような何をやっても成功しそうな能力を有していた一方で、日本の身近にいた、小学生の時からトップアスリートで、早くから競技を専門特化した方は、国内ではトップアスリートでしたが、走る跳ぶなどの身体的能力は全身バネとは言い難く、怪我も多く、早々に現役を引退されていました。

オリンピックを観戦していても、日本代表のある選手は満身創痍ながらもなんとか試合で活躍する一方で、NBAのトッププレイヤーであるバスケットボール男子アメリカ代表の選手たちは、激しいコンタクトを物ともせず、強いフィジカル、高いパフォーマンスで圧倒的な強さをみせつけ優勝していました。

満身創痍で選手活動を続けることは、日本においては美談になりますが、根本的な原因である怪我を少なくし、身体を強くし身体能力を向上させるためには、何が重要なのかを改めて考えていく必要があると感じています。

私の経験則だけでなく、9000人近くの研究でも同様な結果が示唆され、子供のスポーツは以下のことが言えます。

①ワールドクラスのアスリートを目指すなら子供の時に一つのスポーツに特化するのではなく、複数のスポーツを経験したほうが良い。「早くはじめて、遅く特化する」。

②子供の時にワールドクラスのアスリートを目指すならば、子供の時に早くメインとなるスポーツをはじめて、はやく専門特化し、練習量を増やすと良い。しかし、燃え尽き症候群や怪我のリスクが非常に高くなる。

世界的なアスリートになることもすごいことですが、子供のときはたくさん外で遊び、たくさん楽しむ。その手段の一つとしてスポーツがあり、その延長線上に複数のスポーツ経験が生きるのだと思います。

参考文献:

Michael Barth. Predictors of Junior Versus Senior Elite Performance are Opposite: A Systematic Review and Meta‑Analysis of Participation Patterns. Sports Medicine (2022) 52:1399–1416.

デイビッド・エプスタイン. RANGE(レンジ)知識の「幅」が最強の武器になる. 日経BP 2020.

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